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"老い"と戦う鍵、オートファジー ── 加齢性疾患という社会課題に挑む細胞の力

加齢にともなって誰にでも起こる身体の変化。しかし、その裏には認知症や心臓病、糖尿病といった"加齢性疾患"という深刻なリスクが潜んでいます。しかもこれらの疾患は、私たち一人ひとりの生活を脅かすだけでなく、社会全体の医療・介護システムにも大きな影響を及ぼしています。

そんななか、最近の研究で、全身の細胞が本来持つ仕組みである「オートファジー」には、老化の進行を抑え、複数の加齢性疾患の予防につながる可能性を持っていることが分かってきており、「老いはコントロールできる」という新たな視点を私たちに投げかけています。

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「平均寿命世界一」も「健康寿命」との間に10年の差

厚生労働省の発表によると、日本人の平均寿命は、2001年の男性78.07歳・女性84.93歳から2022年の男性81.05歳・女性87.09歳へと延びており、WHOによれば2021年の男女計の平均寿命は世界一です(参照:「Life expectancy at birth (years) 」 World Health Organization)。

一方、「日常生活に制限がない期間の平均」を表す「健康寿命」は、2022年時点で、平均寿命より男性で8.49年、女性で11.63年短くなっています。

この期間は、日常生活に制限のある「不健康な期間」を示しており、「我が国の高齢化が急速に進む中、国民一人ひとりの生活の質を維持し、健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会を実現するためには、平均寿命の伸びを上回る健康寿命の延伸、即ち、健康寿命と平均寿命との差を縮小することが重要」(厚労省HP 健康日本21アクション支援システム内「平均寿命と健康寿命」より)となっています。

2022年のデータに基づく、女性の平均寿命87.09歳、健康寿命75.45歳(差11.63年)と、男性の平均寿命81.05歳、健康寿命72.57歳(差8.49年)を比較した平均寿命と健康寿命の差を示す棒グラフ

健康寿命の令和4年値について(厚⽣労働省・第4回 健康日本21(第三次)推進専門委員会/2024年12月24日)より、2022年における平均寿命と健康寿命の差

加齢性疾患がもたらす社会的インパクト

日本はすでに世界トップクラスの超高齢社会に突入しており、65歳以上の人口は全体の約30%(2024年時点)を占めるに至っています。このような状況の中で、年齢とともに発症リスクが高まる「加齢性疾患」は、社会全体にとって極めて深刻な課題となっています。

加齢性疾患とは、生理的老化に伴って増加する疾患群の総称です。代表的なものには、神経変性によるアルツハイマー病などの認知症やパーキンソン病、心血管疾患(心不全・動脈硬化など)、代謝性疾患(2型糖尿病など)などが挙げられ、介護が必要となる主な原因の大半を加齢性疾患が占めています。(参照:厚生労働省「国民生活基礎調査」2022年)

例えば、アルツハイマー病は患者本人のQOL(生活の質)を著しく損なうだけでなく、家族や介護従事者に大きな精神的・身体的負担をもたらし、医療費・介護費の面でも国全体に重くのしかかっています。国際医療福祉大学医学部公衆衛生学の池田俊也氏らの研究によれば、日本国内でのアルツハイマー病に関連する年間医療費は12兆円を超えるとされ、国の医療費・介護費負担への影響の大きさが伺えます。

(参照:Shunya Ikeda et al. Economic Burden of Alzheimer’s Disease Dementia in Japan. Journal of Alzheimer’s Disease. 2021, 81(1), 309-319.)

【オートファジーの低下が原因と考えられるその他の加齢性疾患】

骨粗鬆症 加齢に伴う骨密度の低下は、骨芽細胞(骨形成細胞)と破骨細胞(骨吸収細胞)のバランスが崩れることで生じます。オートファジーは骨芽細胞の生存と機能に不可欠であり、その低下は骨芽細胞の機能不全を招き、骨形成を阻害すると考えられています。
筋サルコペニア
(加齢性筋肉量減少症)
筋肉の量と機能が加齢とともに低下するサルコペニアは、オートファジーの機能不全と関連しています。オートファジーは、筋細胞内の損傷したミトコンドリアやタンパク質を除去する上で重要な役割を果たしており、その低下は筋細胞の萎縮や機能不全を引き起こします。
変形性
関節症
関節軟骨の変性が主な病態です。オートファジーは軟骨細胞の生存と機能維持に重要であり、その低下は軟骨細胞の機能不全やアポトーシス(細胞死)を促進し、関節軟骨の変性を加速させると考えられています。
白内障 水晶体のタンパク質が凝集し、混濁することで視力低下を引き起こします。水晶体は代謝活性が低く、オートファジーによるタンパク質の品質管理が特に重要です。オートファジーの低下は、異常なタンパク質の蓄積を招き、白内障の発症に寄与すると考えられています。
加齢黄斑変性 網膜の中心部である黄斑に異常が生じ、視力が低下する病気です。網膜色素上皮細胞におけるオートファジーの機能低下は、細胞内の老廃物の蓄積を招き、細胞の機能不全や炎症を引き起こし、病態に寄与すると考えられています。

なぜ治療が難しい?── 投薬だけでは限界がある理由

現代医学の発展によって多くの病気が治療可能になった一方で、加齢性疾患の克服は困難とされています。その理由として、以下のような点が考えられます。

1.根本的な治療をしていない
加齢性疾患の治療は多くが対症療法であり、加齢性疾患になってしまう原因そのものへのアプローチではない
2.複数の要因が絡み合っている
遺伝的要因や生活習慣、ストレスなど、さまざまな要因が絡み合って加齢性疾患を発症することが多く、的を絞ったアプローチが難しい
3.副作用、誤用のリスク
どのような投薬にも副作用や誤用のリスクがありますが、複数の症状に対応しようとすると、多種類の投薬となり、組み合わせによっては副作用が出やすくなったりする
4.予防を目的とした創薬はできない
最も重要なポイントとして挙げられるのが、現在の日本の医療体制では「予防」という領域にアプローチができないことであり、病気が発症していない、いわゆる健康な人に投薬はできないことになっている

このような背景から、従来の医療だけでは加齢性疾患を真に克服することが難しくなっており、新たな視点でのアプローチの必要性が高まっています。

「生理的老化」と「加齢性疾患」

年齢を重ねるとともに、「生理的老化」である老化現象は誰にでも起こるものです。例えば、「視力の低下」は生理的老化現象のひとつです。

しかし、この生理的老化も一線を越えてしまうと、「加齢性疾患」となります。これは日常生活にさえ支障をきたすレベルにまで症状が進んでしまった状態で、例えば「白内障」がこれに当たります。

上記のとおり、一旦加齢性疾患になってしまうと、その完全な克服は非常に難しくなってしまうため、「一線を越えないこと」が非常に重要になってきます。

注目される「細胞が自身を正常に保つ仕組み」──オートファジー

ここで登場するのが、全身のすべての細胞が本来持つ「細胞内成分などを回収・分解し、その結果得られる分解物をリサイクルすることで細胞を正常な状態に維持する」仕組みである"オートファジー"です。

特に近年の研究では、このオートファジーが老化そのものや加齢性疾患の進行に深く関わっていることが次第に明らかになってきました。

オートファジーが加齢性疾患の予防・改善において有望視されている理由は以下のとおりです:

1.根本対策につながる可能性
細胞レベルでの健康状態の改善が期待されるため、根本的な対策としての予防的アプローチができる
2.老化という"共通のメカニズム"に対応
疾患ごとに個別対策を講じる必要がなく、横断的な対応が可能
3.もともと体内に存在する仕組みであるため、副作用が起こりにくい
外部から薬を投与するのではなく、"自然な働きを促す"アプローチ
4.日常生活でできる"オートファジー活性化"
生活習慣や食生活の改善などで、オートファジー活性化を図る老化予防法がある

このように、オートファジーは「加齢の根源」に切り込める重要なメカニズムとして注目されてきています。

未来へ向けて──"老いをコントロールする時代"へ

UHA味覚糖では、かねてよりオートファジーに関して独自の研究を続けており、その成果を社会に還元していくことを目的に、「オートファジーな習慣 プロジェクト」を展開しています。

本プロジェクトでは、誰もが気軽に実践できるオートファジー活性化のための生活習慣や食材を、わかりやすく提示・推奨しています。

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私たちは今、医療の主流が「治療中心」から「予防重視」へとシフトする転換点に立っています。その鍵を握るのが、まさにオートファジーのような細胞レベルで機能低下を予防するという根源的なアプローチです。

老化や病気は「防げないもの」「耐えるしかないもの」という受動的な捉え方から、「主体的にコントロールできるもの」へと発想を転換する時代が訪れています。

そのようなことから、オートファジーの研究は加齢性疾患にまつわる諸問題の解決の光明として期待されています。